【レディ・ジョーカー】美しいものは、人間を卑しさから救ってくれる

レディ・ジョーカー(全7話)見終わりました。

いや、面白かった!震える牛を見て思ったけど、わりと刑事物が好きかもしれない。

大手ビール会社の社長の誘拐事件が色々な組織を巻き込んで大事に発展してゆく話ですが、途中から誘拐犯達の思惑を超えて事件が一人歩きし始める様子が秀逸。

警察、メディア、関連企業、株関係者、裏稼業主・・・まるで皆がそういう事件が起こるのを待っていて、ここぞとばかりに食らいつきに来たみたいで、誘拐犯達が置いてけぼりにされている。

そして、それを社会や組織の闇として表現しきってるのがすごいな、と(原作が気になる)。


ジョーカーを引いちまったんだ

そもそも何故誘拐犯達が事件を起こすに至ったのか。

彼らは元々何の変哲も無い競馬仲間だった。

それぞれの生活を送る彼らの共通点は、皆社会に対して怒りや虚しさを抱えているという点だった気がする。

その中でも、やはりタイトルの由来になっている犯人グループの一人である布川(板尾さん・・笑)の台詞は印象的だった。

俺のツキの無い人生を見てればわかるだろ?ジョーカーを引いちまったんだ。


だから、大企業の社長を攫って鼻を明かすと共に、大金を奪って一攫千金を狙おうというのだ。

実行までの間に綿密に計画を立ててはいるが、やろうと決断した時の皆の気持ちはやけくそに近かったように思う。

彼らはそれだけ、見えないところで精神的に追い詰められていた、ということだろう。


城山社長の面白み

一方、誘拐されたビール会社の城山社長は、一見物腰柔らかだけど一企業の長としての責任感が凄まじい。

彼は、誘拐後に犯人グループから出された条件を聞き、企業にとって損害が少なく済むのはどちらか推し量った上で、警察側ではなく犯人側と裏交渉を続けることを選択する。

警察も裏交渉の可能性には感づいており、ここで大企業と警察との間で水面下の攻防が生まれるので見応えがある。

そして、最初こそ経営者として企業を守るため、と自負して動いていた城山社長が、終盤ではその自信をなくしていく。

会社が暴落したことを自分の責任と感じた義理の弟(部下)が自殺をしたことがきっかけで義弟が苦しんでいた原因に思いを馳せ、企業人としての自分の振る舞いは間違っていたのではないか?と考え始めるのだ。

犯人グループの要求通り20億支払えば終わると思っていた事件が、思いの外周囲の人々を傷つけていたことに思い至る。

良識人である社長は最後には裏取引を認めて辞職する流れになるのだが、禁錮を解かれて自宅に戻った瞬間に暴漢に刺されて呆気なく命を落としてしまう。

そのニュースを見たジャーナリストの「この国は一体どうなっているんだ・・・」という一言が妙に心に残った。


半田さんがすごい良役

犯人グループの中で、警察側からすると身内の裏切り者であった警察官の半田さん。

彼はすごい良かった。絶妙に気持ち悪くて小賢しくて柄が悪い。

わりと早い段階で警察に目をつけられるのでどうなるのやら、と思ったのだが、半田さんが星だと核心を持たれた後も結局彼が引っ張られることはなかった。

その理由は、単純に「身内の粗は隠す」という警察組織の考えによるもの。

半田さんは自嘲的に笑う。

てっきり私は、半田さんがそのまま逃げ切るのかと思ったのだが、彼の考えは違った。

元々、金が欲しいというよりも警察の鼻を明かしたかった彼は、最後まで事件を追い続けた同じ警察官である合田の前で自分がレディ・ジョーカーであることを明かし、合田を刺して現行犯逮捕される。

捕まってからも半田さんは「俺がレディ・ジョーカーだ」と主張するがまともに取り合ってもらえず、単に殺人未遂事件として片付けられてしまう。

彼の失意は、警察組織に対する失意だったんだな、とそこでやっと気付いた(遅い)。

事件の真犯人を追い続けていた合田もまた、半田が殺人未遂で罪を問われていると聞いて、彼の気持ちが痛いほどわかった。

半田が星の一人であると判明し、さらに半田の直属の上司だった三好課長がそれを苦に自殺した結果、警察にはもうレディ・ジョーカーを追う気はなかった。

残りの犯人達は野放しで、裏取引で支払われた20億円も行方知らずのまま、上司には「俺たちは負けたんだ。レディ・ジョーカーが勝ったんだ」と言われてしまう。


合田さんも素晴らしかった

失意の合田は、最後に城山社長が墓参りに行きたいと言っていた岡村清二のふるさとに向かう。

岡村は昔、城山社長が就任する前にビール会社に勤めていたが労組運動に加わったことを理由に解雇されてしまった過去がある。

その時の思いの丈を綴った手紙がこの話の中で大きなキーポイントなのだが、その一説がブログタイトルに使わせていただいたものだ。

岡村は、自社のビールの琥珀色とはじける炭酸を見て「美しいものは人間を卑しさから救ってくれる」と言う。

実はこの岡村は犯人一味の一人である物井清三の実兄なのだった。

墓を訪れた合田は、事件後田舎に戻っていた物井とそれに同行した松戸陽吉(犯人一味)、布川淳一(犯人一味)の娘と出会う。

捜査の折に競馬場で何度も物井と半田が話しているのを見かけていた合田はすぐにピンとくる。

極めつけに、物井が布川の娘を「レディ」と呼んだ(そういうあだ名で物井が呼んでいたのだ)のを聞いた。

半田は彼らこそ自分が追っていた犯人たちの一人だと核心したと思うが、何も言わず、墓の場所だけを尋ねて去って行った。


やるせなさの中にある快感

ついつい、見ればわかるあらすじをこんこんと書き綴ってしまった。

まあ頭の中の整理ということで。


ラスト、物井のじいさんたちが逃げ切ったことへの快感もあるが、警察・メディア・企業側に残ったやるせなさが半端なかった。

犯人グループの中でも、最も素朴な人たちだけが何の痛みもなく(もちろん、それ以前に社会の理不尽に晒されているのだが)逃げ切った。

事件を取り巻いていた人たちの方が大きな損害を被って収束した物語だったが、うむ、そういうことって現実にもあるんだろうなあ・・・と居たたまれない気持ちになる。

それと同時に、物語としての完成度がすごいと思った。

ぜひぜひ、原作も読んでみたいものだ。

ファン曰く「レディ・ジョーカーを映像化するのは無理」だそうなので(そうは言っても映画化もドラマ化もされている笑)、原作はこれよりも尚綿密に書かれているんだろうと思ったらいずれ読むのが楽しみになった。

上中下巻の大作だし、ううーーん。積ん読