★過去に読んで記憶に残っていて、かつ気に入っていた本をどんどん紹介していきたいと思います。
自分のための備忘録でもあるので、雑然としてしまう可能性大ですがなるべく読む人へのオススメも含めて書き記したいです(希望)。
田口ランディのなかなか壮絶な人生が見所?

- 作者: 田口ランディ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/05/17
- メディア: Kindle版
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確か当時18歳くらいの頃だったと思う。
古本屋をウロウロしていた私は、100円コーナーで見つけたこの本のタイトルがなんだかとても気になった記憶がある。
きっと色んなことにムカついていて、タイトルどおり「できればムカつかずに生きたい」と思っていたんだろう。今でも思ってるけど。
そしてこの本を電車の中でカバーをつけずに読んでいたら、目の前に座っているサラリーマンが本の背表紙を凝視していた、ということがあった。
サラリーマンも何か悩んでいたのだろうか、はたまた20歳前後の学生(♀)がこんなタイトルの本を読んでいるのが奇妙に思えたのだろうか。
あの時こちらを見ていた彼は、たぶん今の私とそう変わらない年齢だったろうなあと思うとちょっと感慨深い。
ところで、田口ランディといえばいつだったか盗作騒ぎが起きていましたね。
この人の本を読んだのはこの時が初めてで、エッセイがなかなか面白かったからその後小説も買ってみたけど、そちらは結局途中までしか読まずに処分してしまった。何故ならとてつもなくつまらなかったから(ごめんなさい)。
詰まるところ、作家としての田口ランディよりも、私は人としての田口ランディに興味があったということなのかもしれない。
彼女の生い立ちについては、この本と「もう消費すら快楽じゃない彼女へ」というエッセイを読めばなんとなく概要がつかめると思う。

- 作者: 田口ランディ
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2002/02
- メディア: 文庫
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船乗りでアル中の父親と、父との生活でノイローゼになった毒親気味の母親、引きこもり&ニートの末に孤独死した兄、という強烈な家庭で育った田口さん。
これらのことを全部、毒親とか引きこもりとかニートとか孤独死とかいう言葉がなかった時代に経験しておられるのだから、きっと家族間で混乱が絶えなかっただろうなと思う。
それでもこの人の語り口に奇妙な軽快さを感じるのは、天性の明るさ故なんだろうか。もし自分がこんな人生だったら廃人になってしまいそうだ。
そもそも田口さん自身が自由奔放で、わりと欲望のままに生きてきたような印象を受けたので、深刻なことを深刻に受け止めすぎず、ある程度受け流せる生命力が強いタイプの女性なのかもしれない(←嫌味ではなく、そういう要素はすごい強みだと思う)。
そして、きっととても素直な人なんだなあ、というのが専らの感想だった。
家族間の混乱を経て、自らも子供を持つという時に
なんだか色んなことが赤裸々に書いてあったエッセイだったけど、私にとって最も印象的だったのは以下の部分だ。
確か田口さんが兄を亡くした後に妊娠し、その時に考えたことを書いたものだった気がする。
子供の母親への熱烈な愛情は、母親の想像を超えている。
母性愛は子供が母を思う気持ちには絶対にかなわない。
母は子がなくても生きる。
生まれた子は母がいなければ死ぬ。
子供が母を思う気持ちこそが本能なのだ。
母性は本能ではない。
改めてこの文を読んでみると、「母性は本能ではない」と言い切る田口さんの潔さに、ある種の心地よさを感じた。
女なら誰だって子供を持ちたがって当然、愛情深く子育てができて当然、という考え方はあまり好きではない。
私は母親ではないのでイメージの話になってしまうが、母性というのはある程度を超えたらその人の努力によって培われるものでもあると思うから。
母親は、誰だって感情や本能だけで子育てしていないし、そもそもできないはず。理性と努力で母親になるのだ(偉そう)。
・・・と思うのはこの年齢になってからの感想であって、当時10代だった私は「母性は本能ではない」という言葉に惹かれたのではなく、これの対称として書かれた「子供が母を思う気持ちこそが本能なのだ」という部分に強い共感を覚えたのだ。
私は、父が苦手だった反動もあるのか、母っ子でとにかく母の側を離れたがらない子供だった。
添い寝も幼稚園の送り迎えも母じゃないとダメだった。
外出のために留守番させられると、玄関先でいつまでもメソメソと泣いていた(そして父に叱られる)。
とにかく母が近くにいないと不安だった当時の自分の気持ちを思い出そうとしてみると、田口さんが書いていたこの文章がとてもしっくりくる気がしたのだ。
私は母がいなければ生きられなかった。母だけは私を決して拒絶しないという絶大な信頼を寄せ、文字通り熱烈な愛情で母を求めていた。
その時のことを考えると、人生で1番幸せな時間だったような気もするし、どことなく窮屈で憂鬱な時間だったような気もして、胸の辺りが苦しくなってくる。これが俗に言う「切ない」という感情だろうか。
とは言え、現在の母との関係はまあまあ健全なものだと思う。
これは不健全だった時があるという意味ではないけど、なんとなく母と私は感情の距離が近すぎる気がするので、離れて暮らしている今が1番心地よい関係なのかもしれない。
適切な言い方が思い浮かばないけれど、今のこの感覚のことを考えると、どんなにお互いに大事であってもやはり子供は親元から巣立つ生き物で、ずっと一緒にはいられないし、離れていく方が健全なのだと思う。
ちょっと脱線したけれど、当時のそんな気持ちを思いだした1冊でした。