【黒と茶の幻想】アラフォー、森を行く

黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)

黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)

黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)

黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)


一時期ドハマりしていた恩田陸

読んでいたのは高校生~専門学生くらいの頃でしたので実は最近の作品は全然手をつけていません。


恩田陸と言えば、私は言葉のリズムが美しくてすごく好きなのですが、リズムが綺麗なだけでなく登場人物の台詞の内容にもドキッとさせられることがよくありました。

恩田さんは大のミステリ好きなんですけど、他にも少女漫画好きな一面もありまして(萩尾望都あたりの時代のやつ)、小説の舞台設定や登場人物の絶妙にウェットな感覚なんかは萩尾作品からの影響もあるのかな~と人知れず感じています。

私も結構萩尾望都好きなので。いやほんと、少女漫画といえどあなどれんです。

いつかこちらもレビューしたいと思っているけど、萩尾さんが書くキャラクターの心情描写はゾッとするほどリアルですから。


舞台設定も魅力的

恩田さんの本は、舞台設定に興味を惹かれるものが多いです。

なんというか・・・お耽美根性が疼くと言いますか・・・(学生当時はそんなニュアンスで受け止めてなかったけど笑)

まず高校生の頃初めて読んで「面白い!」とビックリしたのは"ネバーランド"

続いて"麦の海に沈む果実"でその不思議な世界観にズブズブにハマり、"三月は深き紅の淵を”を読んでこのシリーズを読破しようと決めました。


さて、最近久しぶりに読み直した作品として、今回は"三月は深き紅の淵を"シリーズに属する"黒と茶の幻想"を挙げます。

あらすじは以下のとおり(Amazon引用)

太古の森をいだく島へ――学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理(ゆうり)を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。

この小説も、設定が面白いんです。

大まかに言うとアラフォーの元同窓生の男女4人組がグループ旅行で屋久島へ行く話なのですが、ただ旅行するだけじゃつまらないということで、それぞれが日常に潜む「謎」を持ち寄って、道すがらその「謎」を推理しながら旅をしようというコンセプトを設けたのです。

この旅のテーマは『非日常』。
三崎彰彦が考えるミステリーとはいかなるものであるか?それはズバリ『過去』である。
『過去』の中にこそ、本物のミステリーがあるのだ。・・
時間に、記憶に、街角に、蔵の隅に、音もなく埋もれていくものの中に『美しき謎』がある。
普段喚起されていない記憶を求めて、我々は旅をする。・・
今までそれぞれが不思議に思っていたこと、気になっていたこと、名づけて『美しい謎』
それを皆の前で披露して、皆でその謎を解決していく。
美しき謎を解いていく『安楽椅子探偵紀行』だ。
我々は過去を取り戻すために旅をする。

かつてミステリサークルに所属していた彼らは、普段ならばスルーしがちなふとした疑問についてあえて考察して、そこに「美しい謎」を発見したいというわけです。

面白そうじゃないですか?

旅行という非日常の中だからなのか、皆どんなにくだらない謎でも笑い飛ばしたりせず真剣に考えながら道を歩んでいく様子がなんとも興味深い。


章立ても良い◎

"黒と茶の幻想"は上下巻で全4章の仕立てとなっており、旅行メンバーの一人一人が章ごとの語り手となります。

最初の一人目の章を読んでいる時は初見なのでわからないのですが、二人目、三人目、と進んでいくうちに、過去に彼らの間で何が起きていたのかということが明らかになると同時に、やはり違う人間が違う視点で語っているわけですからそれぞれの人物や出来事に対する見解の差なども見えてきて読み応えがあります。

そして、語り手となるメンバーの順番も改めて読んでみると絶妙だなあと思うのです。

一人目の利枝子。真面目で大人しい感じの女子大生だった彼女が繰り広げる淡々とした、けれど何処か情熱を孕んだ語りに惹かれます。

二人目の彰彦。絶世のイケメンだけど性格に難がある(らしい)が、実は正直でロマンティックなだけの良い奴。

三人目の蒔夫。とりあえずクズ男。いやー久しぶりに読んだらむしろ爽快なくらいのクズっぷり。こんなにも変わった感性の持ち主だとさぞ人生が生きづらいだろうなと勝手に同情する。

四人目の節子。人付き合いが上手で明るいだけでなく、実は誰よりも冷静に周囲を見渡している永世中立国的な人。彼女に物語の〆としての役割をさせるのはなんとも秀逸だなあと思った記憶がある(理由は覚えてない)。

各章ごとにそれぞれの個性が光っていて、面白いです。


言葉選びとリズム感

おぞましいことと美しいことの境目はどこにあるの?優しさと残酷さは?親切と意地悪は?憎しみはどこから始まるの?それは愛とどこが違うというの?笑顔で殴れば憎しみで、泣きながら殴ればそれは愛になるの?

確かこの台詞は、件の同窓生・梶原憂理が最後の夜に舞台で言った言葉だったと思います。

何と言うか・・・響きが綺麗だと思いませんか。

私はこういうジメッとした葛藤を小説として昇華している(しようとしている)作品が結構好きです。

リアルな生活で口にしたり態度に出したりしたらきっと周囲の人は嫌気がさしてしまうような負の感情を、あえて文学として美しくおどろおどろしい言葉で表現するのです。

変な受け取り方かもしれないけど、それって作者にとってもスッキリするし誰も傷つけないでしょう。


果たして今初見で読んでも恩田陸の本が面白いと思えるのか、あの独特な言葉の羅列を美しいと思えるのか定かではないですが、久しぶりに読んでみても気になる文章はやはり同じところだった(昔読んだ本に線を引いていたのだ)。

感性がそれほど変わっていないことを喜ぶべきなのか、成長していないと嘆くべきなのか、それはわからないけれど・・・。

やっぱり恩田さんは、人が日常的に感じているモヤモヤを的確にしかも美しい文章で表現することに長けているよなあと改めて思った(偉そう)。

思い出すたびに何だか切なくて、じんわり心に染み入るような言葉。

そういう言葉を紡げるってすごいことだ。そして願わくば自分もいつかそんな文章を書けるようになりたい・・なんて思い続けて早10年。

時の流れは恐ろしいです。

と、話が逸れそうなのでそろそろ終わりにします。ちゃん。