【夏の名残りの薔薇】夏になると思い出す

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)

沢渡三姉妹が山奥のクラシック・ホテルで毎年秋に開催する、豪華なパーティ。参加者は、姉妹の甥の嫁で美貌の桜子や、次女の娘で女優の瑞穂など、華やかだが何かと噂のある人物ばかり。不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きる。これは真実なのか、それとも幻か?



2010年の夏、10代最後に一人旅をしようと思って奈良・京都へと向かった。

その頃の私にとっては一人旅は結構な冒険で、そのせいなのかもう10年も経つのにいつまでも色褪せない記憶として心の中に残り続けている。

記憶と言っても・・・・・・とんでもなく暑かった!!!!というのが感想の大部分を占めているのだが。


そもそも旅先を奈良に決めたのも、恩田陸の著書に影響されてのことだったのだ。

まひるの月を追いかけて (文春文庫)

まひるの月を追いかけて (文春文庫)


今回レビューしたい本からズレるけど、これも結構面白くて、主人公が蒸発した義兄を探しに奈良へ赴く話だった。


恩田陸の魅力のひとつとして、〈旅の始まり〉の描写力があると思う。

確かこの「まひるの月を追いかけて」の冒頭だったと思うけれど、義兄探しの旅に同伴する義兄の元カノ(!)と駅で待ち合わせをして寝台列車に乗りこみ、夜が更けていく中、静かに酒盛りをしながら談笑するシーンがある。

旅×お酒の魅力もさることながら、おつまみとして出てくる食べ物がとても美味しそう。


そして主人公の心情描写からは、これから始まる旅への期待とそこはかとない憂鬱感がひしひしと感じられる。

これらは相反する感情のようだけど、私も毎度旅行前は同じ気持ちになるのですごくよくわかる。

恩田さん自身もそうなるとエッセイか何かで言っていた気がする。

あれは何でなんでしょうねえ。


話を戻して。

当時私が奈良を行き先に選んだのはこの物語の中で主人公達が奈良明日香村の史跡巡りをしており、その情景描写がすごく心に残っていたからで、暑い中ヒーヒー言いながら必死でレンタル自転車漕いで「ああここがあのシーンで出てきたお寺ね」とか「これがあのシーンの坂ね」とか一つ一つ確認して自己満足に浸ってムフフと思っていた。

これが私にとっては10代最後のとても良い思い出なのです。


しかし実際にこの旅の道中読んでいたのは「夏の名残りの薔薇」の方でして。

一通り史跡を巡り終わってカフェで一息ついていた時にこの本を読み始めた、という記憶が今も鮮明に残っている。


夏の暑さに反して、なんだかひんやりするような物語だったなあ。

資産家の老姉妹が所有する老舗ホテルで毎秋開催されるパーティで繰り広げられる殺人事件を題材としたミステリ小説であり、全6章ごとに語り手が替わることで招かれた人々の1つの事件に対する見解の違いが浮き彫りになるというもの。

というか、各章ごとに殺されたとされている人が違うので、読者は「えっなんで??」となるのです。

そこにミステリとしての面白さが出てくるのかなあと思いますが、如何せんミステリはあまり読んでこなかったのでわからず(笑)


ここまで書いておいてなんだけど、正直に申し上げると恩田陸の本は雰囲気を楽しむものだと思っている。

劇作家の脚本を小説仕立てで読んでいる感覚というか。

それだけ、物語中の雰囲気作りが上手いということでもあると思います。


以下、作中より印象的だった文章。

人間はつまらない真実よりも面白いフィクションに金を払う。世の中の人間は、真実など誰も必要としていない。嘘でも楽しませろ。自分をミステリアスに見せろ。謎めいた人間の方が、人は興味を抱くし尊敬の念を抱くものだ。

なんていうか、当時はこの言葉に大人の処世術を見たような気がして、強烈に記憶に残っている。

文庫にアンダーラインを引いていたので、ここにも書き留めておきます。