ディア・ハンターを見直しました(今ならprimeビデオで無料です!!!!)。
先日タクシードライバーの話をしたので、ベトナム戦争やPTSD繋がりで、久しぶりに見たくなったので。
初めて見たのは学生の時で、近所の映画館で思い出上映的な企画をやっており、その中に“ディア・ハンター”がラインナップされていたのでした。
ジャンルは戦争映画、主人公はロバート・デ・ニーロ(めちゃかっこいい)が演じています。
父に勧められて1人で見に行ったのですが、色々な意味で大ショックを受けて、それ以来10年くらい見ていませんでした(笑)
でも、私にとっては戦争映画の中では未だに歴代1位に輝いている映画です。
ずっと結婚式
舞台はアメリカ、ロシア系移民の若者たちが、兵士に志願してベトナムへと出兵して行く話です。
この映画の最大の特徴は、全3時間のうち序盤の丸々1時間を故郷の結婚式の風景を撮ることに費やしているという点。
はじめて見た時は、「一体いつ戦争に行くんだろう・・・(汗」と疑問に思ったくらいです。
しかし、あのほのぼのとした結婚式や、仲間達と一緒に鹿狩りに行って飲んだくれて楽しんで・・・という日常の風景が小1時間も続くことで、後に主人公達がベトナムへ行った時との落差が視聴者に強烈な印象を与えるのだということに、見終わった後になって気付きます。
一見戦争とは無関係な片田舎の正教会(っぽい)で行われる昔ながらの素朴な結婚式のシーンが私はすごく好きで、ここだけなら多分何度でも見られると思います(笑)
ミサを伴う式の後に公民館のような会場で、新郎新婦もゲストも関係なくロシア民謡に合わせて踊って食べて呑みまくっています。
出兵前、鹿狩りの後で仲間の店でビリヤードをしながら“君の瞳に恋してる”を皆で熱唱するシーンも大好き。
初めて見た時は、クリストファー・ウォーケン(ニック)が格好良く見えたんだよなあ。
今は断然ロバート・デ・ニーロですが。
本当に楽しそうで、幸せそうです。
恐怖のロシアンルーレット
結婚式の夜に、ビールとテキーラのショットで泥酔したロバート・デ・ニーロが夜道を走りながら服を脱いで裸になるシーンには笑いました(とにかくパンツがダサい)が、その後親友のニック(恋仇でもある)に「俺の身に何があっても見捨てないでくれ」と言われるシーンは久しぶりに見たらなんだかすごくグッときました。
何となく暗い出来事を予感させるようなニックの台詞でしたが、その通り、突然シーンが変わって映画はベトナム戦争編へと突入します。
ちなみにこの映画の中では、通常の戦争映画のような銃撃戦のシーンなどはほぼありません。
その代わり、世にも恐ろしい展開が待ち受けています。
戦地で再会した同郷の3人はベトナム兵の捕虜となり、彼等の娯楽の一環として、ロシアンルーレットを強制されるのです。
このシーンは本当に怖い。
そしてマイケルがめちゃくそかっこいい。これですが、閲覧注意。
心の傷
3人揃って何とかその場を切り抜けて生き延びますが、しかしこの出来事が主な原因となって、彼等の心には深い心的外傷が残りました。
その後、不運にも別れ別れになってしまった3人のうち、出兵前の結婚式の新郎であったスティーヴンは両足切断の怪我を負い、ニックは行方不明、マイケルは沢山の勲章をもらって故郷に帰ってきます。
マイケルはそれまで故郷ではずっとうだつの上がらないただの兄ちゃんだったのに、戦争から帰ってきた途端に町中から英雄扱いされます。
好きな女の子さえ、振り向いてくれます。
しかし彼の心は満たされることなく、むしろベトナムを経験した自分と何も変わらない故郷との落差を実感し、身の置き場を失くして苦しみます。
そんな中でマイケルは気分転換に鹿狩りに出かけていくのですが、彼にはもう鹿を撃つことができませんでした。
改めて見ると、この表現は秀逸だなと思いました。
タイトルのディア・ハンター(鹿狩り)はこの出来事にかかっているのでしょう。
趣味だった鹿狩りを楽しめなくなってしまったこと、無駄な殺生を避けたかったのか、その心の機微は描かれていませんが、しかしこのマイケルの変化こそ、彼の深い心的外傷の表れなのだと思います。
また、もう1つ印象深かったのは、その時一緒に鹿狩りに行った友人(彼等は戦地には行かなかった)が、昔のように悪ふざけをして銃口を別の友人に向けた時、それを見たマイケルが突然激昂し、空砲もあるけれど実弾が入った状態で自分とふざけた友人に対してロシアンルーレットをします。
友人達は、知らず知らずのうちに彼のトラウマに触れてしまったのです。
その様子が、なんとも痛々しくて切なかった。
かつての友達を見るのとは違う、異質なものを見る様な目で見られたマイケルも哀しかったでしょう。
トラウマは繰り返す
その後、マイケルはニックの消息を耳にして、再びベトナムへ戻っていきます。
ニックは、ベトナムの賭博場で賭師になっていまいた。
しかも、賭けの内容はここでもロシアンルーレットでした。
戦争のショックと1人取り残された孤独の中でどうしようもなくなったニックは茫然自失となり、経験したトラウマを何度も繰り返していたのです。
いくら精神的におかしくなっているとは言え、なぜニックはこんなことをするのだろう? と初見時は思ったのですが、私は改めてこのシーンを見ていて、萩尾望都の“残酷な神が支配する”という漫画を思い出していました。
本気の名作です。ただし、読んでいてめちゃくちゃツライ。
この漫画の中で、心的外傷を抱えた主人公がトラウマの原因となった出来事を何度も何度も繰り返し追体験して自傷し続ける場面があるのです。
そのことを、作中では精神科医が以下のように語っています。
「どうして彼はその苦痛を繰り返すんでしょう。なぜでしょう」
「あいつの性(さが)だっていうのか? あいつはそれが好きだっていうのか?」
「違いますよ。それが傷ですよ。傷のついたレコードが何度も同じところを歌い続けるでしょう。あれですよ」
「人間はレコードじゃない」
「そうです。でも傷ついたことを何度も繰り返すことがあるんです。いやなのに。つらいのに。……気づかずに。なんのために? わたしにもわかりません」
それだけに、ニックの心の傷の深さが感じられます。
結末はショックすぎて、そのせいで私は初見後10年もこの映画を見られなかったのですが(笑)それでも心からオススメできる映画のひとつです。
とても美しい映画でした。
しかし、私は初めて見た後も思ったのですが、誰の心の傷が一番深刻だったかと言われると(こんなことは比べても仕方ないのですが)、それは実はマイケルなんじゃないかと思ったのです。
繰り返しになりますが、鹿狩りをライフワークにしていた彼が、帰還後に鹿を撃てなくなっていた、これが決定的な気がします。
そして、あんなにも恋い焦がれた、好きだった女の子に言い寄られてもどこか心あらずで彼女に向き合えないところにも、彼の心の傷の深さを感じました。
どうやら、戦争はその人の人生を変えてしまうようです。
その経験によって乱暴に歪められてしまうと、マイケル達のようにPTSDを発症することもあるだろうし、そうでなくても戦争は、その時代に生きただけでその人の人生のコアを占めてしまうようなのです。
私は、自分の身近な戦争体験者の話を聞いていてつくづくそう思いました。
戦争が人生になる。
それって、すごく罪深いことだと、改めて思うのです。